天使の微熱

第一章: 地上への墜落

エピソード1: 紅い翼の天使

遥か高天の頂きに存在する「光の聖域」。そこには神に仕える天使たちが住んでいた。 その中で、異彩を放つ一人の天使、リリエルがいた。彼女は紅い髪と真っ赤な瞳を持ち、他の天使たちとは一線を画す存在だった。

特に人間界への興味が強く、地上で暮らす人間たちの感情や生き方に強い好奇心を抱いていた。 ある日、聖域の禁を破り、人間界を覗き見たリリエルは、温かい家族に囲まれる少女の姿に心を奪われる。

しかし、天使としての掟を破った罰として、リリエルは「紅い翼」を失い、地上に墜とされてしまう。

エピソード2: 不完全な天使

目を覚ますと、リリエルの体には痛みが走り、翼はもはや機能を果たしていなかった。 傷ついた身体で街をさまよう彼女の姿は、まるで彷徨う幽霊のようだった。

地上の人間たちはリリエルの異様な姿に恐怖し、誰一人近づこうとはしなかった。 その中で唯一、彼女に手を差し伸べたのが、孤独な少年アキラだった。

アキラは両親を事故で失い、幼い妹ミユと共に寂しい日々を送っていた。 リリエルは天使であることを隠しながら、アキラたちとともに暮らし始める。

エピソード3: 天界の追跡者

リリエルが地上での新しい生活に慣れ始めた矢先、天界からの追跡者が現れる。 彼は天使長ミカエルの命を受け、リリエルを捕らえ、再び天界に連れ戻そうとしていた。

追跡者はリリエルの「紅い翼」が再び力を取り戻す前に、彼女を消し去るつもりだった。 リリエルは追跡者からアキラとミユを守るため、力を使わないという掟を破り、反撃を試みるが、かつての力を失った彼女は一撃で敗北する。

それでも、アキラたちを守ろうとする彼女の姿に、追跡者は戸惑いを覚える。

第二章: 人間としての選択

エピソード1: アキラの願い

アキラは瀕死のリリエルを抱え、泣きながら助けを求める。 しかし、リリエルは微笑みながら、「私は罰を受けるべき存在なの」と語る。

アキラはそれでも諦めず、リリエルを助けるためにある伝説を頼ることを決める。 それは「天使の涙」を手に入れることで、天使を蘇らせるというものだった。 アキラは、危険を顧みず妹と共に旅に出ることを決意する。

エピソード2: 人間の力

アキラとミユは、天使の涙を探し続ける中で多くの困難に直面する。 寒さに凍える夜、盗賊に襲われる危機、そして妹の体調の悪化――それでも二人はリリエルの笑顔を思い出しながら進み続けた。

一方で、リリエル自身も次第に人間としての生き方を理解し始め、アキラたちを守ることが自分の使命だと感じるようになる。

エピソード3: 涙の泉

旅の果て、アキラたちはついに「涙の泉」に辿り着く。 しかしその泉を守るのは、かつて地上に落とされた別の天使の霊だった。 霊は、天使の涙を手に入れる代償として、「最も大切なもの」を差し出すよう求める。

アキラは一瞬迷うが、彼の心は決まっていた。彼は自分の命を差し出し、リリエルを救うことを選ぶ。

第三章: 紅い翼の復活

エピソード1: 最後の贈り物

アキラの命と引き換えに手に入れた「天使の涙」。リリエルはそれを受け取り、再び天使としての力を取り戻す。 しかし、目を覚ました彼女が見たのは、アキラの冷たい体だった。

ミユは涙を流しながら「お兄ちゃんを返して」と叫ぶが、リリエルは力尽きたアキラを抱きしめることしかできなかった。

エピソード2: 天界との決別

天界からの追跡者であるミカエルが現れ、リリエルに「地上を捨てて戻るように」と命じる。 しかし、リリエルは毅然とした態度で「私はもう天使ではなく、人間の心を持つ存在」と告げる。

そして、アキラの命を救うため、自らの力を完全に捨てることを決意する。

エピソード3: 天使と人間

リリエ ルの力を使い果たした奇跡により、アキラは再び目を覚ます。 彼は涙を流しながらリリエルを抱きしめるが、リリエルの紅い翼は完全に消え失せていた。

彼女は天使としての存在を失い、人間として新たな人生を歩むことを選んだのだ。 ミユの手を取り、リリエルは微笑む。「これからは、一緒に歩こう」と――。

エピローグ: 微熱の記憶

数年後、リリエル、アキラ、そしてミユは小さな家で静かな生活を送っていた。 リリエルの記憶には、わずかに天界のことが残っているが、それ以上に人間としての暖かさを感じていた。

「天使だった頃の私は知らなかったわ、人間の心の輝きを」。 そう呟きながら、リリエルは青空を見上げるのだった。

――完――